なちゅれ・小笠原旅行紀

9月15日
父島到着

船上の朝は早くから動き出します。5時に目覚めてみると、あちこちからゴソゴソと甲板へ 動く足音。同じ考えの人が多いのか、それとも小笠原旅行の定番として定着したのか、 まだ日の昇らぬ甲板にみんなで出てみると、意外なほどの人出に、ちょっとした 通勤電車状態になっていました。
待つほどに、悠々と水平線より上り来る朝日。ため息と感激の声がまわりからゆっくりと広がり ます。たよりなさげな赤い丸は、やがて力を誇示するように海原に金色の光を走らせ、見る間に ずいずいと上り詰めていきました。
気付けば回りは、青い海。そして快晴。遠くに入道雲。南の景色です。


昇り行く朝日

朝日とおがまるの船具

青い海原を見つめる松井さん

トビウオを探す悟郎氏

やがて朝日を眺めに来た人々もゆっくりと船室に戻り始め、静かな、静かな、海の朝が 流れ始めました。
下側の甲板に並び、青い海原を眺めていると、すぐそこをトビウオが飛びます。 スイ〜ッと、驚くほど遠くまで飛ぶ勇姿をなんとかカメラに収めようとするものの、相手は 神出鬼没に飛び立ち、すぐに遠ざかるのでフレームにいれることすらできません。 あきらめてぼんやりしていると、ふいに進行方向から一群れの影。あわてて悟郎氏に叫びます。
「おい!! あれ多分、イルカだぞ!!ちょっと待て、カメラカメラ!!」
泡食う私の横を、20匹ほどのイルカの群れが悠々と、威厳すら感じさせる雰囲気で 通りすぎて行きました。おがまるの快速さがこんなに憎たらしかったのははじめてで、 立ち上がりの遅い自分のデジカメに泣きそうになったのも久しぶりでした。


3匹のトビウオが飛び立ちました

イルカ……に見えます?

その後はあいも変わらず、寝に戻ったり、サッカーチームを育てたり、朝飯食ったり、 甲板に突き刺さったりと、それぞれ好き勝手な時間をすごしながら、刻一刻と近づく 南の島への期待を膨らまします。
甲板にいた私は、オナガミズナギドリ、アナドリ、クロアジサシなどを目撃してご満悦。 でも鳥や景色を見なくとも、甲板の一番前に陣取って感じる海の風というのは 例えようもない心地よさがあります。
今回の旅で甲板に出っぱなしでいると、同じくずっと出ているの人がいて、それが 意外なほど固定メンバーだということを発見。凡人にはわからぬ趣向なのか、単なる 物好きの集まりか、どちらなのでしょう。
そんな甲板居座り組にサービスしてくれたのがカツオドリ。遠くに陸が見える頃、 一匹のカツオドリが船のすぐそばにしばらく居着き、ゆっくりと船の脇を飛んでは 海面にサーッと下りて、飛び立つトビウオを追いかけるということをしばらく 繰り返し、鳥好きも、一般の人もみな、その勇姿にしばし見とれました。 残念ながら漁の成功率は少なかったようです。
私は夢中になって撮影するも、飛んでいるものをオートフォーカスで捕らえるのは 大変で、あげくに頑張りすぎて電池切れというていたらく。 電池を握り締め、大慌てで引き返してくると、カツオドリの姿はすでになく、遠くに父島が 見えてきていました。


カツオドリの勇姿

トビウオを狙って急降下

小笠原諸島最北の島、聟島(ケータ)

悠然と見えてきた父島

島が見えると、甲板の上にも人が多くなって、俄然にぎやかになります。 長いようで短いような、25時間半の船旅の終焉が近づいてきます。
するとふいに沖から黄色い船が一隻。どうやらイルカウォッチングの船の 一つが、ついでにお出迎えとしゃれ込んだ様子。そうこうするうちに ぐんぐんと島がでかくなり、見覚えのある岩肌や、海岸の風景が 近づきます。
やがて海が浅くなってエメラルドグリーンに変わり、父島の中心地、 二見港の景色が見えてきます。その変わらない風景に、ちょっとだけ 心の奥深くがあったかくなったりして、ぼんやりと見つめていると ぐんぐんと港の人々が大きく見え始め、船の上もにぎやかになりはじめました。 憧れの地への到着です。
慌てて用意を整え、下船するとそこは、昔とは変わっているところもあるけれど、 間違いなくあの懐かしい場所。出迎えの人のざわめきの中歩くと、 今までなんとなく実感の薄かった「小笠原」という言葉が体に染み込みます。
ついに、ようやく、来たんだな。


お出迎え?の船

なつかしい父島・二見港の風景

とうとう父島に到着

おがまるの到着でにぎわう港

単身母島へ乗り込む私は、そこですぐに「母島丸」の乗船手続き。つつがなく終了後、 父島の宿である「美空荘」へ。不思議な感じのお宿は、我々3人だけなぜか離れの ようになった独立部屋を与えられ、一家の主のような顔をして居座れるという ラッキーな特典着きでありました。
松井さんと悟郎氏は早速レンタルスクーターで動き、こちらは大急ぎで母島丸に 乗りこむというワタワタの挨拶を終えて、昔より確実にお店の数が増えたメインストリート を歩きつつ、港へ急ぎます。
途中で早速イソヒヨドリのお出迎え。芝生にはムナグロが休み、道端にはブーゲンビリアなど の南の花。デジカメを握っての足取りは遅々として進まず、最後は飛びこむようにして 母島丸の船上へ。
さっそく一番上の看板に登ってみわたすと、なつかしの赤灯台。やがて汽笛の音と共に 父島につかの間の別れの挨拶をして、再び船上の人になりました。


早速のお出迎え。イソヒヨドリ♂

アリアケカズラ。美麗なる外来種

タコノキの実。うん、南国に来たんだなぁ。

思い出の場所、赤灯台を船上より

母島丸の上でも、変わらず甲板に貼りつきっぱなしの私。しかし南の陽射しは 容赦なく、すこしばかりフラフラ。周りを見るのにもちょっと疲れてウトウトしていると、 おがまるの上で知り合ったバードウォッチャーの人が、バタバタッと走ってきて、
「さっきオオシロハラミズナギドリがいたんですよ。こっち側来ました?」
分かりやすく解説すると、普通に生活をしていれば一生に一度見れるかどうかの 大珍品の鳥を見逃したというわけでして、居眠りしていた自分をつねりたくなりました。 その後、性根を直してじっくり海を見ると、オナガミズナギドリに混じって、 シロハラミズナギドリ(ではないかという諸氏の結論でした)を目撃。 島の近くではメダイチドリが飛ぶのも見れましたが、当然写真は全部ペケ。
そんなこんなでドタバタしているうちに、こちらも懐かしい母島の、切り立った 崖が間近になってきて、やがて沖港の風景がぐんぐんと近づきます。
タイムスリップしたような、全く変わりのない風景。
星を見たり夜釣りしたり、抱えきれないほどの思い出が、ブワッと胸の底から 噴出して、ほんの少し目頭が熱くなりました。
やがて船が到着し、急いで下船すると、見覚えのある顔。向こうは覚えていなかった けど、今年もお世話になる民宿「ママヤ」のお出迎えの人です。こっそり口の中で 「ただいま」なんてつぶやいたりして。早速車で宿まで運んでもらい、荷物を放り込む なり、あわただしくスクーターを借りて、母島探検に向かいました。


母なる大地、母島の全景

母島の中心地、沖港の景色



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