なちゅれ・小笠原旅行紀

9月14日
出発の時

きっかけは単純なことでした。
かつて「なちゅれ」は数年間、夏合宿と称して小笠原に旅し、様々な 思い出や、冒険話や、伝説を両腕にかかえきれないほどに持ち帰りました。 夏の島の素晴らしい時間は、スパイスの効いた伝説を載せ、時の流れが話の角を 丸めて熟成し、実に素敵な思い出として語り継がれてきました。
それをうらやましがる、なちゅれでほぼ唯一の『現役生』、刈田悟郎氏の提案と その強引な決定により、ついに、4年ぶりに「なちゅれ・小笠原旅行」が決定した わけです。
事務能力のない悟郎幹事に、生きものオタクの刈田兄貴、そして唯一の良識派として 松井さんの3名、のっけから波乱を予想させるメンバーは、ろくすっぽ下調べも しないまま、朝8時半、なつかしい竹芝桟橋に集まりました。


今から長時間お世話になる「おがまる」

乗船待ちの人・人・人

久しぶりの乗船手続きは、経験者2名ともさっぱり忘れていて、ワタワタ手間取って いるうちに時が流れます。早期購入割引30%なんていう新制度を発見して悔しがったり していると、いつのまにか外に長蛇の列。
「これ全部行くんか?」
改めて素朴な驚きを感じつつ、急いで買いだしに。諸般の事情により、船上の食料は 事前調達にかぎるんです。と、私が留守番をしていると早くも「乗船開始」の放送。 のんびり買出しから戻った二人と合流し、ドタバタと風情を感じるまもなく船の上に。
久しぶりに見る二等船室は、あいもかわらずタコ部屋です。一人あたりの割り当て面積は 畳半畳、床に毛布が整然と並べてある素敵なザコ寝部屋。これでこそ旅情が深まるもんです。
うれしくなりつつ、早速甲板へ。
折からどんより雲に覆われ尽くした東京の空を眺めつつ、翌朝目が覚めればそこに南の青い空が あることを信じながら、お見送りの人を眺めます。 どうでもよい話をしつつ船の出航を待っていると、ふいに悟郎氏の携帯が鳴りました。
「すげぇ、野田さんお見送りに来てるって。今、浜松町の駅だって。でも、もう出るよなぁ」
野田氏はかつて、お見送りの人々の目前で突如叫びながら前回り受身を披露し、船一杯の 拍手をかっさらっていった経験をお持ちなので、微妙にその所業を期待しつつ待っていると、 ブォ〜〜ン、と深い汽笛がまるで煙のように、薄暗い東京の空に吐き出されました。
ゆっくり、おがまるの大きな船体が岸を離れ始め、お見送りの声が飛び交います。 しかし、まだ野田氏の姿は見えません。どこだろう。目を皿のようにするもむなしく、 船はゆっくりと走り始めました。
「野田さん間に合ったよ、あの赤い服の人がそうだって!!!」
悟郎氏が携帯を握り締めながら報告するも、私は結局、適当にお見送りの人を撮影した写真の 中から彼を発見するに留まりました。
お見送り、誠にありがとうございました。


下段中央で携帯を持ってる赤い服の人が野田氏

出発してすぐに真下をくぐった有名な橋。名前失念。

船が出るとすぐに、小阪さんより電話にて、一番の小笠原経験としての激励とアドバイス。 すぐに深田さんより電話があり「オガサワラトラカミキリ類ってのがいてさぁ…」。 続いて今井氏より電話があって「うらやましいうらやましいうらやましい」。
かつての小笠原旅では考えることも出来なかった、遠隔お見送りという、時代の移ろいの速さを 考えさせられるような、ありがたいお見送りを得つつ、船は一路東京湾を進みます。
当然のように深く褐色がかった海の色、灰色に塗りつぶされた空、岸辺に立ち並ぶ猥雑物。
やがて少しずつ岸が遠くなり、鶴身川の河口や観音崎など、ちょっと見知った場所を過ぎると 海の色も群青色に変わっていきます。


東京湾より、都会の1シーン

南の島へ一路進む。東京の空はどんより曇る。

船の上の時間はゆっくり流れますが、船の外には流れ出さずに、ゆっくりと沈殿します。
いつのまにか、日ごろの疲れからか松井さんは船室で熟睡し、悟郎氏は寝転がったまま サッカーチームを育てます。私は甲板に貼りついて、双眼鏡で曇り空の中、海上を 眺めつつ、時折、うつら、うつら。
それでもオオミズナギドリ、ハイイロミズナギドリなどの海鳥を見つけましたし、 夕方も深まるころ、沖の暗がりを飛ぶ一群のウミツバメ類(あとで聞くとオーストンウミツバメ とのこと)にも出会え、それなりの収穫です。
うろうろとノラ犬のように甲板を歩いていると、意外な人に出会いました。なちゅれの小笠原訪問者には つとに名高いスタンリー氏。イルカウォッチングの「きり丸」の船長で、私も過去4年お世話に なっています。
思わず、
「あの、覚えていらっしゃらないでしょうが、昔何度かきり丸でお世話になりました。 お元気そうですね。」
などと声をかけると、
「そんなことないよ、なんとなく見覚えあるよ。元気だったか?」
とのお言葉。社交辞令100%と分かってもうれしいモンです。またお世話になるかもしれない旨を伝え、 よろしくとお願いをしておきました。
時はうつろい、期待していた夕日は、分厚い雲の向こうに掻き消え、空の灰色が漆黒に変わるころ、 甲板でカップ麺という男らしい晩飯をつつき、普段経験しない時間の流れにフラフラと していると、雲間から少しずつ星が見え始めました。
やがて少しずつ雲が溶けて、満天の星。惜しむらくは高々と昇った月のおかげで、かつての ような降りそうな星とはいきませんでしたが、月の光が海原をなめながら船へとさしかかる 光景というのもかなり幻想的で、いくら見ても見飽きませんでした。
私は思わず一番上の甲板にぶち転がって星を眺め、やがて目前の星空よりも さらに甘美な夢の世界へ。12時過ぎに船員にたたき起こされ、船室の人となりました。


湾外で見かけたハイイロミズナギドリ?らしき鳥

月夜は幻想的に美しかったが写真にはならない



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