なちゅれ・小笠原旅行紀

9月16日
母島探検・二日目

昨晩はぐっすりと夢の世界へ潜り込んだからでしょうか、夜明け直前、5時頃には予定通り 目がパッチリ覚め、すがすがしい朝の世界を探索に出かけました。
とりあえずなにも考えずに沖港へ。
浜辺にいくと一面のグンバイヒルガオがあでやかに咲き誇っていて、港沿いに歩くと たくさんの魚の影。そしてヒョコヒョコ歩く、ムナグロとキョウジョシギにも出会えました。


グンバイヒルガオ。砂浜らしいあでやかな花

キョウジョシギ(左)とムナグロ。港を歩いていた

のんびり歩くと、港の深みにはたくさんの魚たち。散々カメラを向けてみるも、 水中を泳ぐ小さな魚にはピントが合わないし、写っても小さな点がポッチン。
これでは頑張りがいがないなぁと思っていると、天に声が届いたのか、目の前に大きな 魚影。これがまた昔懐かしいハリセンボンじゃないですかぁ。数年前に母島のちょうど このあたりで、岩崎君がタモ網ですくったハリセンボンは、翌日煮物となって我々の 胃の腑を慰めてくれたものです。感慨に耽りつつ、一枚パチリ。
しばらく歩くと今度はさらに巨大な魚影。某有名映画の音楽そのままに、ユラリと 出現した彼は、ネムリブカ。図体はでかいけどおとなしいサメです。撮ってくれとばかり ちょうど目の前に静止した彼の心配りに感謝しつつ、またパチリ。


悠々と現れたヒトヅラハリセンボン。

ジョーズのテーマを引っさげて登場。こばやん覚えてる?

感動しながらさらにその先に続く砂浜まで歩いていくと、途中の囲いの中に 動く影。のぞきこんでみると、中にはなんと海亀の赤ちゃんがいました。 昨晩の放流式の時に、ここで卵を保護しているという話をしていたので、 彼らは卵から孵って、外の大きな世界をはじめて見たところなのでしょう。
やがて無事に海に辿り着き、万難乗り越えて大きな親亀になりますように。
その後もしばらく砂浜の回りをうろつき、いろんな海浜植物の花を見つけて カメラを振り回していると、朝日もいつのまにかしっかりと登りきり、南国の陽射しが 降り注ぎ始めました。たちまち胃袋方面から催促があったので、ゆっくりと 宿の方に歩みを変えます。


広い世界をのぞきたてのアオウミガメの子供

ハマナタマメ。素敵なピンクの花

クサトベラ。よく見ると不思議なかたちの花でしょう?

ギンネムの枝にメジロ。この木も外来種

沖港からママヤまでは5分ほどですが、道すがらにも見所は満載。 かつて何度も見たメグロにこそ会えなかったものの、ハシナガウグイスや メジロが近くによって来て、至福の時を過ごしました。
ようやく宿に帰ると朝7時。大急ぎでカップラーメンをかっ込んで、そのまま スクーターに飛び乗ります。今日はすぐ近くの乳房山に挑戦する予定なのです


ハシナガウグイス。小笠原固有亜種

今回もお世話になったママヤ。

乳房山には2つの大きな目的があります。一つは山頂付近で見られるという オガサワラシジミ。しかしこちらは激減してほとんど見られないらしく あまり期待できません。もう一つは隣接する乳房ダムとその上流の沢での 小笠原固有のトンボ類。
まずは後者ということで乳房ダムへ。着いてみるとダムのすぐ下には水のたまる 空間があり、いずれも帰化種のボタンウキクサとアメリカミズキンバイが密生 していました。水中には魚影があり、すくってみるとどうやらグッピーのよう。 ほかにオオヒキガエルのおたまじゃくしもたくさんいます。
感心しながら眺めていると、すぐそばを小さな影!!
小笠原上陸後はじめてみるトンボです。もしかしてオガサワライトトンボか?
緊張してぶるぶる震える手で写真を撮ってみると、それは広域分布の アオモンイトトンボでした。こちらは都内でも普通に会えます。残念賞。


たくさん泳いでいたグッピー

アオモンイトトンボ♂。綺麗なトンボなんですが……

さて気を取り直して乳房山の登り口へ。今回は西の尾根から攻めてみることに しました。以前経験した通りのかなり厳しい斜面を、汗だくになりながら登ると 爆弾の穴。塹壕の跡。第二次大戦の残した、ちょっと寂しい遺物です。
しばし上り道に集中していると、やがて思い出深い、大きなガジュマロに 辿り着きました。巨大な幹からたくさんの枝を張り出し、そこからたくさんの根を 地面にぶら下げて、巨大な建造物のような存在感。

さてここで取り出したるは白水社より出ている『小笠原 緑の島の進化論』。
この 136pに、乳房山の西尾根に関してこんな記述があります。
「…林の東側は急な斜面になっていて、適当に見当をつけて木の幹や枝や根っこに つかまりながらずり下りていくと、数分で小さな川の源流に降り立つことができる。 …(中略)…ここにはシマアカネ、オガサワラトンボ、ハナダカトンボ、オガサワライトトンボ などの固有トンボ類が多く、流れに沿って行き来しつつ、時折枝に止まっていたり産卵していたり するが……」
これを読んでいた私は、迷うことなく、まだ見ることない沢に向かって足を踏み出すことに いたしました。


乳房山登り口。前途多難な道の始まり

尾根の途中から見下ろした下界。一面の密林

シマザクラ。かわいい花をつける固有種。桜の仲間ではない

一つの世界を内包する巨大なガジュマロの木

本の記述通り、東側の斜面に足を踏み出します。慎重に一歩、二歩。ザザザ〜〜〜〜ッ!!! かなりの急斜面は加速度的に私を下方へと誘い、踏み出すごとに予測の数倍の距離を かせがせてくれます。あっという間にかなり下方へ。
そこで私は、足りない頭では気付かなかった圧倒的な失敗にようやく気付きました。
「これ、どうやって戻れっていうんだ??」
心の迷いは、足配りをおろそかにさせました。踏み込んだ途端に足もとの石が落下し、 同時に私の体も斜面を直滑降で滑り落ちます。ガラガラドシャン。
持ち前の悪運か、神の御加護か、擦り傷程度で、無事あこがれの沢に到着を しましたが、腰につけていたデジカメのオプションレンズ(1.5倍テレコン)は滑降の 最中にどこかにすっ飛んでしまいました。嗚呼。
しかし、不幸と幸運はどこかでつりあうもの。土まみれで呆然と立ち尽していると、 すぐそばを小さな影。ふりむくとそれは、夢にまで見たハナダカトンボの姿でした。
感激しながらゆっくりカメラを向けますが、これがまた素晴らしい性格の持ち主で、 警戒心が強い上に、気付くとすぐに飛んで逃げるんです。小型のトンボだから飛ばれても たいしたことないだろうと想像していたのですが、やつらはなんと、気付いた途端に 上に飛びやがる。ス〜ッと昇って、高い枝に止まるんです。
土まみれの姿も、五里霧中の帰路もすべて忘れて、しばらくは沢を歩き回って ヤツらを追い掛け回しましたが、結果はこの程度。もう一度チャレンジしたいなぁ。


ハナダカトンボのオス。赤と黒が素敵なトンボ

こちらはメス。撮影者にとっては怨みたくなるようなトンボ

しかし問題は帰路です。下ってきた斜面は戻れるはずもないので、道は一つ、沢を 下っていくだけですが、これもしばらく進むと滝壷のように垂直に5mばかり 切り下った場所があって、下りるにはロッククライミングの装備が欲しいところ。 しかし船の出発はあと4時間後。溜息、溜息。
悩んだ末、結局斜面の木につかまって、冷や汗掻きながら、滝壷をぐるりと迂回して その先に下りましたが、沢を下りて道に出る保証はどこにもないのだから始末が悪い。
まぁそこは、親が遺伝子の中に塗りこんでくれた能天気さをいかんなく四方に照射し、 「人生なるようになるもんさ」などと口笛吹きながら、ズンガズンガと進んでいく、 「毒を食らわば皿まで作戦」を展開することにし、沢沿いに進んでいきました。
沢は枯れかけていて、たくさんの水溜りという状態になっていましたが、のぞきこむと たくさんの生き物の姿が見れました。
多かったのはヌマエビの仲間。そして、オガサワラヨシノボリ。
図鑑を眺めてはあこがれていた魚がこんなにたくさんいるなんて、うれしさのあまり 思考回路がショートし、時間がないのも忘れて、手掴みでなんとか捕まえようと しばらく水溜りに両手を突っ込んで奮闘。その甲斐あって捕まえた数匹のうち、 一匹は現在も刈田邸の水槽で元気にやっています。
その他にも手のなが〜いヒラテテナガエビや、撮影こそ出来なかったけど堂々たる 体格のオオウナギにも出会えました。
また、沢沿いにはメグロの群れが何度も飛来しますが、こちらは薄暗い空間を飛びまわるので なかなか被写体にはなってくれません。そんなこんなで楽しんでいるうちにあっという間に 沢を下りきり、見覚えのある風景に出ました。
考えてみれば当然なのですが、そこは乳房ダムの裏手。斜面の木につかまりながらゆっくりと ダムを迂回して、ようやく無事、見なれた道に辿り着きました。
結局沢で出会えたトンボはハナダカトンボ1種だけ。こちらもリベンジが必要ですね。


沢で見かけたメグロ

沢にたくさんいたエビの仲間。ヤマトヌマエビ?

オガサワラヨシノボリ。沢にたくさんいた

ヒラテテナガエビ。暗い沢で水中生物の写真は難しい…

フラフラになりながら、乳房山登り口に停めてあったスクーターまでたどり着くと 時計は既に10時半。これから山頂はとてもじゃないけどムリだということで、 素直にあきらめて、登山口の周りをぶらついてから、すこし南側の道路へ。 昨日とは違って快晴の空のもと、眺める青い海の気持ちよさ。しかし持ち時間は 残り少なく、のんびりする間もなくママヤへすっ飛んで返しました。
スクーターを返し、少し早めに支払いを済ませ、最後にもうひと散歩と告げて、出航時間に 荷物を届けてくれるようお願いして、今度は小剣先山へ。
24時間も島に滞在せず、宿にほとんどいつかずにフラフラして、ママヤのおばちゃんもさぞかし 変な客だと思ったでしょう。あやしいヤツでゴメンナサイ。


枝でさえずっていたイソヒヨドリ

ランタナの花。別名シチヘンゲ。外来種

沖港を望む。水の色のあでやかさよ

南国の街中での光景

小剣先山は、沖港のすぐ近くにある、ちょっと小高い場所で、とてもいい感じの ビュースポットです。
きつい斜面を汗かきながら登っていくと、道端にはオガサワラトカゲがちょろちょろ と動き、そこらの木にはグリーンアノールの愛嬌ある姿。10分ほどでたどり着いた 頂上からは、沖港の全景が一望でき、ふり返れば訪ね損ねた乳房山の山頂が 見えます。
「今度来た時はじっくりと攻めてやるから、首を洗って待っているように!!」
母島の四方八方に宣戦布告をして、ゆっくりと見渡し、残り時間を計算して大慌てで港へと 走りました。


オガサワラトカゲ。南の島々に広く分布する

グリーンアノール。外来種で在来昆虫の減少理由

剣先山から眺めた集落の全景

剣崎山の頂上への道。なかなか素敵な雰囲気でしょ?

港で手続きをすると、程なく乗船の時間。 かつてはこのわずかな時間を縫って、港の観光協会でおみやげを買ったものですが、 今回の来訪時はちょうど改装中。メグロTシャツは次回のお楽しみです。
母島丸に乗りこみ、その足で一番上の甲板に上がって、もう一度乳房山をにらみつけます。
「ちくしょい出し惜しみしやがって。次回は覚えとけ。」
間もなく出航、エメラルドグリーンの海を大量の泡が白く染め上げて、船は岸を離れます。 ゆっくりと着実に過ぎ去っていく母島の雄大な自然たち。

……一緒にリベンジする人大募集中デス。




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