なちゅれ・小笠原旅行紀

9月15日
母島探検・一日目

到着するなり、宿の人を急かすようにスクーターを借りて、やや呆れられつつ大急ぎで北方面の道へ。 今回は母島には20時間しかいられないので、初日は日が沈むまで桑の木山と石門周辺を攻める 予定なのです。
島に一本だけの幹線道路を北へ突き進みますが、道端の植物や鳥にしばしばスクーターを止めるので、 なかなか遅々として進みません。 おまけに悪いことに、少しずつですが着実に雲が多くなり、前途多難な様子。デジカメを降りまわしつつ、 とにかく急げとばかり、せわしなく走り回りました。


見下ろしたとある浜辺。海の色の輝きよ。

マメ科の植物?外来種っぽいが名前はわからなかった

ジュズサンゴ。これも外来種。

シマオオタニワタリ。小笠原在来のでっかいシダ

今回の旅の個人的大目的は小笠原固有のトンボ。ということで、沢があるたびに下りてみるのですが、 どれ一つとして水がないんです。どうもここんところ雨が降ってないらしく、一時的に枯れている ようで、水源まで行けば水があるのでしょうが、そこまでの時間はとてもじゃないけど、ない。 どうもイヤな先行きが予測できてきたあたりでようやく桑の木山に到着。
かつてグリーンぺぺという光るキノコを見に何度も来たところですが、様々な資料を見ると小笠原固有の 樹木の宝庫とか。
ドキドキしながら、林の中に分け入ってみましたが、当たり前ながらうっそうと茂る南国の林は、 空模様もあるのでしょうが、暗い。 これくらい暗いと中であまり花も昆虫も期待できないし、メインの道は海岸方面にひたすら下っている 様子なので、あまり行きすぎると残りの場所に行く時間もなくなる、ということでしばらく 林の中を駆け回っていくつか植物の撮影をしただけで、次の目的地、石門へと急ぐことにしました。


桑の木山の看板。貴重な植生なんです。次回は是非じっくりと。

桑の木山のシンボル、コブノキ。正式名シマホルトノキ。

ホシツルラン。増殖実験中の株を見ることが出来た。

ムニンシュスラン。まだつぼみ。咲くのは11月頃。

石門は、かつて2度、ガイドの人に案内してもらったことがあります。その時は なんと幻のアカガシラカラスバトにも出会えたし、壮大なスケールの洞窟に潜って 感動し、戻り道の狭い坑道で先を行く某氏がつっかえて、ちょっぴりスリルも味わいました。
もちろんガイドをお願いしなきゃいけない事は知っていたのですが、今回はガイドを手配する 時間もないので、記憶を元に単身突入と意気込んできたわけです。
ここにこだわるのは洞窟に潜りたいからではなく(そんな時間はないし)、このあたりにいるという 小笠原固有のチョウ、オガサワラシジミに会いたいから。
しかし、ようやく辿り着いた石門入り口には「石門は立ち入り禁止。途中までもガイド同伴で なければ絶対ダメ」という厳しい立て札。どうやら数年前に途中の道が崩れたらしいのです。 しかしここで引き下がっては男がすたる、ということで、単細胞の方向音痴約一匹、とりあえず 沢沿いに攻めてみることにしました。
しかし、期待した沢には水もなく、意外に早々に源流部に突き当たってしまい、さらに下りからの曇り空が ますます暗くなってくる始末。記憶をたよりに尾根へ上ると、遠くに昔の記憶によく似た ハチジョウススキの茂る草地が見えました。


石門の看板。ほかにも立ち入り禁止の看板が2個ありました

とりあえず突入してみた沢。薄暗くて水はなし

林を潜り抜け、汗だくになりながらゆっくりその草地へ進みます。記憶が確かならその草地は 花がけっこうあって、当然チョウも狙える可能性が高まります。
じっくり進むとようやくその草地に近づきましたが、その手前がなんとタコヅルの密生地。 この植物はぎっしりと茂る上に葉が硬くて、密生地の中を進むのは、ほとんど針の山地獄を 進むようなものです。
しかし、目的地はあと少し。男ならば強行突破、とあがくことしばし。
ふと気付いて双眼鏡を出し、遠くを改めてよく見ると、先ほどまではススキ茂る草地と 思っていた場所も、実はタコヅルの密生地にすぎないという愕然とする事実を発見してしまい、 タコヅルの茂みにすがり付いて、しばし男泣きに泣いてしまいました。
おもしいろいくらいバカバカしい時間のムダ使い。もはやほかの場所を探す体力も残って おらず、またこれ以上移動すれば帰り道が分からなくなることも確実なので、泣く泣く 時間をかけて沢まで下り、石門入り口の看板まで戻りました。
次回こそは、時間をじっくり取って、ガイドさんをお願いして、再チャレンジといきたい ものです。ううっ……。


ムニンセンニンソウ。小笠原固有の白くてかわいい花

ヘゴの葉。なんとも南国チックでしょ?

一面にタコヅルの群生。ぎっしり。うんざり。

タコヅルの実。結構かわいいでしょ

貴重な時間を無駄に投げ捨てたことを強烈に後悔しつつ、夕暮れも近づいているので とりあえず最後の目的地、東港へ。
ここは、かつてよく泳ぎに来たところで、高い堤防の上から、小阪さんと一緒に 度胸だめしの飛びこみをした思い出のある場所。ウミガメやマンタにあったことも ある素敵なポイントです。泳ぐためではなく、母島まで着たからにはここにも挨拶を せねばと、以前から思っていたのでした。
スクーターで進んでいくと小鳥の群れによく出会います。メジロの中に、小笠原固有種、 あこがれのメグロが混じっているのですが、すばやい上に空が暗いのでなんとも写真は 切り取りにくいもの。どうにもこうにもならないようなカットが数枚取れただけでした。


小笠原固有、憧れのメグロ。撮影には再トライしたいなぁ

メジロ。小笠原のものは移入された亜種間雑種とされています

思ったよりも時間がかかり、東港付近に着いた頃には日が暮れ始めていましたが、 とりあえず挨拶と思って下りようとすると、一枚の看板。 なんと現在工事中につき立ち入り禁止。でっかいフェンスが行方をさえぎります。
見事な時間のから周りぶりに、自分でもうっとりしてしまいました。あっはっは。
あきらめてゆったり帰る道すがら、夕焼けの綺麗なこと。宿屋に着く頃には すでにとっぷりと暗くなっていました。


立ち入り禁止の看板。そんな無情な

夕日の中を舞うオガサワラノスリ。小笠原固有亜種。

名前はわからないけど、かっこいい花。外来種だね。

途中で見た夕日。力強いオレンジ色。

フラフラと宿に帰り、しばしの休息。
同じ宿にはほかに3名の男性が泊まっていましたが、彼らは一つの4人部屋で、 私はなぜか別の4人部屋に1人きり。おまけに彼らは飯付き(\6500)なのに 私だけ素泊まり(\4000)。妙な孤立間を感じつつ、台所でお湯を借り、内地で 買いこんでいったカップヤキソバを作っていると、宿の人が親切に
「どうせなら皆さんとご一緒に食べられてはいかがですか?」
しかし、宿の豪華な飯の横で、貧乏人が一人ヤキソバUFOの匂いを充満 させるのもやるせない光景なので丁重にお断りして、部屋でかっこみます。 面白いことに、宿の階段の明かりにはホオグロヤモリが、自分の部屋には オガサワラヤモリがそれぞれ出現してくれました。


ホオグロヤモリ。船に乗ってきた外来種です

オガサワラヤモリ。こちらも起源の古い外来種とか

さっと一風呂浴びて、そのまま桑の木山にグリーンぺぺ探し。 正式名称ヤコウタケというこのキノコは、夜にぼんやり薄緑に光ることで 有名な、小笠原の名物です。
ここのところ雨が降ってないので見つからないかもという宿の人の声もあったものの、 さがしてみなきゃわかんないじゃんと意気込んで出ましたが、街灯もない真っ暗な道路を 一人スクーターで走るのはあんまし気持ちのよくないもの。 時折道からトラツグミが飛び立つのが、またなんとも心臓によい不気味さです。
到着してしばらく探したものの、暗闇の林をあまり奥までいく勇気がどうしても 出せなくてギブアップ。とぼとぼと暗い夜道を戻りはじめると、途中で 近くの宿のワゴンとすれ違いました。人をたくさん載せて桑の木山方面ということは、 これはグリーンぺぺツアーだ、と直感。すぐに引き返して桑の木山に行き、
「すいませ〜ん、別の宿のものですがまぜてもらえませ〜ん?」
とずうずうしく乱入してしまいました。
ガイドさんの手ほどきよろしく、しばらくして小さな グリーンぺぺが一つだけ見つかり、みんなが残った後に長時間露光にチャレンジ。 静まりかえる熱帯雨林のど真ん中、妙に神経の張り詰める時間をしばらく経験しました。
無事撮影終了後、沖港にいってしばらくフラフラ。岸壁には大きなカニが 居座り、港を歩くと大きなサメが泳いでいるのが何度も見え、写らないと 分かっていてもついついデジカメを向けてしまいます。


ようやく見つけたグリーンぺぺ。これは指先くらいのミニサイズ

港にいたオオイワガニ。

港を歩いていると、すぐそばの宿から人がどわどわ出てきました。 よく見るとみんな手に手に海亀の子供を持っています。どうやら放流会が あるようです。思わず先ほどの要領で混ぜてくださいというと、申し訳ないが 代金を取っているので…とのこと。とりあえず脇から眺めさせてもらうことに しました。
砂浜で放し方をレクチャーして、ついに放流。ゆっくりと子亀が砂の上を 歩き、波にのって海に入るのはなかなか感動的でした。光をめがけて 動くとのことで、フラッシュをたけず、撮影できなかったのが残念。
その後港をじっくり見ていると、数日前に放されたのだろう子亀が元気に 泳いでいるのを発見して、なんだか楽しい気分になりました。
その後もしばらくうろついて、カニや、虫の音や、空一杯の星を 愛でながら、結局10時近くまで港に居座りました。


夜空は満天の星と、鮮やかな月。昼の曇り空が嘘のよう

砂浜にいた、スナガニの仲間。なかなかすばしっこい。

海辺で見つけたコオロギの仲間。ナギサスズの類かしら?

二見港の夜景。これもまた幻想的

港から帰りがけ、ふと気付いて道端を見ると、やはり思ったとおり、オオヒキガエルと アフリカマイマイに会えました。
どちらも外国産で、本来の生態系を崩しているとして悪者扱いされています。数が減った といいますが、こんなに簡単に会えるようではやはりまだ影響は大きそうですね。
そういえば昔、 「小笠原には2種類のカエルがいる。ヒキガエルとヒカレガエルだよ。」 などといわれたことを思い出します。ヒカレガエルのほうもたくさん見ました。
そんなこんなで、成果のあったかどうか、なんともつかない第一日。 明日の予定を練るはずが、さすがに走り回ったからか、すぐに泥のように寝てしまいました。


オオヒキガエル。外来種。これはヒカレガエルになってない(笑)

アフリカマイマイ。嫌いな人には許せないサイズの外来種。



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